~特別編~ 昭和なパワハラ
その昔、「24時間戦えますか?」というCMがありました。
企業戦士として、24時間365日働き続ける──
滋養強壮剤の広告でしたが、当時の働き方を象徴する言葉でもありました。
昭和の時代は、男性は夜遅くまで働き、土日は接待ゴルフで家に帰らない。
家庭は“主婦”が守る。
そんな役割分担が当然とされていました。
もちろん、当時に戻りたいとは思いません。
しかし、当時は当時として、それが「普通」だったのです。
私の師匠だけでなく、休日出勤も当直も当然で、
正当な理由がなければ休ませてもらえない──
そんな働き方が当たり前でした。
今なら訴訟になってしまうような上司も多くいましたが、
それは医療現場に限った話ではなく、社会全体がそのような空気だったのです。
ある日、医局会で一人の先生が質問しました。
「我々には労働基準法は適用されるのでしょうか?」
そのときの教授の言葉を、私は今でも鮮明に覚えています。
「医師は特殊な職種だ。労働基準法は適用されない。我々は法外の場所にいるのだ。」
当時は、人の命を預かる仕事だからこそ、残業という概念も、休日出勤という概念もありませんでした。
その後、私は大学の電子カルテ導入委員に任命され、リーダーとして旗振り役を務めることになりました。
連休を利用して大規模なリハーサルを行った際、模擬患者役の方々を含め、病院全体を巻き込む一大イベントとなりました。
看護師、事務員、検査室など、多くのスタッフに協力いただきましたが、委員会で「残業手当をどうするか」という議題が出たとき、私はその概念が理解できず、
「それは何ですか?」
と尋ねてしまい、場を凍り付かせた記憶があります。
さらに時代が下り、働き方改革が始まった頃の説明会でも、教授陣を含めて「タイムカードとは何か?」という質問が相次ぎました。
最近までこの感覚だったのですから、当時の働き方がいかに異様であったかは、想像に難くありません。
回顧録に登場する“昭和の空気”は、決して誇張ではなく、あの時代の「普通」だったことを、ここに申し添えておきたいと思います。


