産休・育休と職人気質
先日、ある市の市長が産休を取得するというニュースがSNSで話題になっていました。私としては、そのような立場の人こそ率先して産休・育休を取ることで、他の職種にも波及効果が生まれると歓迎すべきだと感じていました。しかしSNSでは、批判的な意見も少なくなかったようです。
おそらく、一定の役職に就く人は限られた任期の中で仕事に専念すべきだ、という考え方が背景にあり、それが批判につながっているのでしょう。
一方で、私が冒頭で述べたように、「そのような立場の人だからこそ産休・育休を取りやすい社会改革につながる」という意見や、「こうした批判が起こること自体が少子化の一因だ」というコメントも見られました。
正直なところ、私はどちらの意見にも一理あると感じています。特に、私たち医療職のように職人気質が強い業種では、ある一定期間は仕事に没頭すべきだという考え方には、確かに納得感があります。しかし同時に、市長が産休・育休を取得したという事実が後世に残ることは、将来の働き方の道標として大きな意味を持つとも思うのです。
つまり、仕事への向き合い方や職務内容によって、働き方は多様であるべきだということです。もちろん、ひとつの技術を磨くために寝食を忘れて研鑽する時期が必要な場面もあります。極端な例ですが、戦時下の前線で突然休みを取ることは難しいでしょう。ただし、交代要員や適切な人員配置があれば、ある程度は対応できるはずです。
職務が属人的になればなるほど、休みを取ることは難しくなります。私のボスが晩年に目指していたのは、まさにその属人性を排し、誰が担当しても業務が滞らないシステムを構築することでした。腹腔鏡手術で名を馳せていた先生であっても、「自分にしかできない術式」は持続可能性がなく、大きなリスクを孕むと考えていたのです。
実際、師匠が急病で入院し、私たちに手術を託すことになった際、このシステムが大きな力を発揮しました。この“脱属人化”の経験は、今の私にとっても非常に重要な学びとなっています。
ある技術を開発し、突き詰めるためには、一時的に没頭する時期や、それを支えるメンバーが必要です。しかし、そこで得た知見を「体系的に言語化し、共有する」という視点こそが、産休・育休に対する批判への答えになるのではないでしょうか。


