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「かわいい偏重社会」と少子化──日本の恋愛市場が抱える構造的ゆがみと、妊孕性の現実について

日本の少子化は、長らく経済や保育制度の問題として語られてきました。しかし、これらの対策がほとんど効果を上げていないことは、すでに誰もが知るところです。では、少子化の本質はどこにあるのでしょうか。生殖医療の現場で妊孕性の現実と向き合い続ける中で、私は、日本社会の恋愛市場そのものに構造的なゆがみがあるのではないかと感じるようになりました。そのゆがみを生み出しているのが、日本特有の「かわいい偏重文化」です。

日本では、長い文化史の中で「かわいい」が美的価値として強調されてきました。大きな瞳、小さな顎、華奢な身体、あどけなさ、無害さ。これらはすべて幼形成的特徴であり、サブカルチャー、広告、アイドル文化、美容整形、SNS加工文化などがこの価値観をさらに増幅してきました。結果として、若年女性の社会的価値が過剰に高く見える構造が生まれています。

一方で、若年男性は価値が上がりません。経済力がないこと、社会的地位が低いこと、メディアで価値化されないこと、そして「かわいい文化」の対象外であること。若年女性だけが価値を持ち、若年男性は価値を持たないという非対称な恋愛市場が形成されているのです。この構造は欧米にはほぼ存在しません。

この非対称性は、同年代婚を難しくします。若年女性は若い頃に「価値が高い状態」で社会に入ります。その自己評価は年齢を重ねても残りやすく、結果として「自分より価値の高い男性」を求める傾向が強まります。いわゆる上昇婚志向です。若い頃に高く評価された自己価値観が、年齢を重ねても下がらないのです。一方で若年男性は、同年代女性から選ばれにくくなり、恋愛市場から撤退するケースも増えます。こうして、同年代婚が成立しにくい社会が生まれます。

同年代婚が成立しない結果、初婚年齢は上昇します。女性の初婚年齢はすでに30歳に迫り、第一子出産年齢は31歳を超えています。しかし、生殖医療の現場では、妊孕性は年齢とともに確実に低下するという現実を毎日目の当たりにしています。20代前半では妊娠率は高く、30歳を過ぎるとゆるやかに低下し、35歳を境に明確に低下し、40歳を超えると急激に低下します。見た目が若くても、卵巣年齢は若返りません。「かわいい文化」が生む“若く見える30代”は、妊孕性の現実と大きく乖離しています。この乖離こそが、少子化の決定的な要因です。

政府は保育園や給付金を増やしますが、出生のほとんどは婚姻内で起こる以上、結婚が減れば出生は減るという単純な構造があります。つまり、恋愛市場のゆがみを放置したままでは、少子化は絶対に止まりません。本質的な少子化対策は、文化構造と恋愛市場、そして妊孕性教育の三つを同時に見直すことにあります。

まず、若年女性の価値が過剰に高く見える文化を少しずつ是正する必要があります。若さだけを価値とする広告やメディア表現を見直し、成熟した女性の魅力を社会的に可視化すること。美容整形や加工文化が幼形成的特徴を過剰に強調する傾向を緩和し、多様な美の基準を提示すること。これらは、若年女性の価値の過剰化を緩やかに抑える効果があります。

同時に、若年男性の価値を社会的に引き上げることも重要です。若年男性の社会的役割を可視化し、経済的自立を早める政策を整え、自己肯定感を高める教育を行うこと。若年男性が「価値の低い存在」として扱われる文化を変えていくことが、同年代婚の成立を後押しします。

さらに、上昇婚志向を緩和するためには、妊孕性の現実を社会に正しく伝えることが欠かせません。卵巣年齢の変化を正確に伝え、30代の妊孕性低下を科学的に説明し、若く見えることと妊孕性は無関係であることを啓発する。卵子凍結の適切な活用や、生殖医療の限界を正しく伝えることも重要です。妊娠・出産の現実を社会が正しく理解することが、価値観の修正につながります。

少子化は、経済や制度の問題ではありません。日本社会の美的価値観、恋愛市場の構造、そして妊孕性の現実が複雑に絡み合った「文化の問題」です。この構造を丁寧に解きほぐし、社会全体で成熟した価値観を育てていくことこそ、本質的な少子化対策になると私は考えています。生殖医療の現場から見える妊孕性の現実を、これからも丁寧に発信し続けたいと思います。