腹腔鏡のトロカール配置とポルシェ911

ポルシェ911というスポーツカーをご存知でしょうか?リアエンジンリアドライブ(RR)、という昔ながらのレイアウトの車です。私は自動車評論家ではありませんので、ごく簡単にしかご説明できませんが、最近主流のフロントエンジンフロントドライブ(FF)は、車の後ろ半分が自由に設計できる一方で、前部分にエンジンと操舵と駆動機構全てを詰め込まなければならず、昔は技術的に困難だったそうなのです。また、スポーツカーであれば、重心が車体の中心にある方がコントロールしやすいため、エンジンを中心に配置するミッドシップが優れているそうで、名だたるスポーツカーはそのレイアウトとなっているようです。

ポルシェも一度はRRの911の製造を止め、フロントエンジンリアドライブ(FR)に替えようとしたことがあったそうですが、RRに愛着のある熱烈なファンには受け入れられず、販売は振るわなかったようです。そこでポルシェは911をRRとして作り続けることに決め、RRの弱点を様々な技術革新で改善し今に至るのだと聞きました。

さて、長々と車の話をしてしまいましたが、腹腔鏡手術において、鉗子やカメラなどを挿入するトロカールという管を腹部のどこに配置するか、というのが今回のメインテーマとなります。この配置法がまるで流派のようになっているのも事実で、少し面白いお話なのです。

産婦人科以外の領域でも、腹腔鏡ではお臍に1本トロカールを挿入することが一般的であり、腹腔鏡がまだ検査だったころは、婦人科であれば腹腔内の捜査のための鉗子を入れるべく、腹部下方の左右に1本ずつ配置することが基本でした。

検査であればその3本で事足りたのですが、手術となれば縫合などの複雑な操作を行うため、術者にもう1本のトロカールが必要となりました。我々が所属していた順天堂では、その4本目のトロカールを左脇腹に入れる方法を用いることになりました。師匠の亡き武内先生にお聞きしたことがあるのですが、術者が左側に立っているため、その右手が当たる部分に挿入するのが最も自然と考えたのだそうです。この方法を左パラレルと呼び、右側に術者が立ち、右の脇腹にトロカールを挿入する方法を右パラレルと呼びます。一方で左右対称に骨盤臓器に到達したい、ということから恥骨の上、ちょうどお臍と左右のトロカールとの位置関係がひし形の頂点のようになる方法があり、ダイアモンド法と呼ばれます。産婦人科領域ではこの方法が主流となっており、左右対称に術者がアプローチできるため、特に子宮全摘手術においては有用だと思われます。パラレル法はややマイナーとなっていますが、例えば、子宮筋腫核出術では、遠くにあるトロカールから筋腫をけん引できるメリットがあります。

それぞれどのトロカール配置でも長所短所は持ち合わせているのは事実、その手術を行うその流派の先生方のたゆまぬ努力によって、短所を克服し、数多くの手術を行ってきてるのだと思います。まるでRRの911のようですよね。