子宮内膜症と不妊症②(深部子宮内膜症の診断法について)
前回は、卵巣チョコレート嚢胞(子宮内膜症による卵巣嚢腫)の場合には、体外受精を前提とするのであれば、手術をせずに体外受精を先行した方が良い、というお話をいたしました。もちろん、大きな卵巣嚢腫があり、妊娠中の破裂リスクがあれば、胚凍結を行い、手術後に胚移植を予定する、「ハイブリッド治療」も選択可能です。
ただし、非常に強い腹痛や、月経困難症を引き起こす原因にもなる、「深部子宮内膜症」については、熟練した術者が手術を行うことを前提に、手術を行った方が不妊治療の成績が良い(Casals G, et. al., Impact of Surgery for Deep Infiltrative Endometriosis before In Vitro Fertilization: A Systematic Review and Meta-analysis. J Minim Invasive Gynecol. 2021 Jul;28(7):1303-1312.e5)という報告もあるのです。ここで重要なのは、「熟練した術者」と「深部子宮内膜症の診断」、の二つだと考えます。
「熟練した術者」については、やはり手術経験に大きく依存いたしますので、多くの手術症例数を持つ、湘南本院が第一選択だと思われます。さらに、その他、腹腔鏡下手術件数の多い施設/術者をご紹介可能ですので、当院としては、手術を前提にご紹介させていただくことになります。
「深部子宮内膜症の診断」ですが、これがかなり問題となるかもしれません。前回お話した通り、子宮内膜症の診断は今でも腹腔鏡検査で確定することが基本ですので、手術前にしっかりとした診断を行うことが困難となるのです。
私は大学時代、この深部子宮内膜症の診断について研究をしておりました。私の師匠が子宮内膜症によるダグラス窩(子宮と直腸の間)の癒着を確認するために、腟と直腸にゼリーを注入して膨らませることで分かりやすくなる、という報告を行い、それに関する論文をいくつか執筆しております(Kikuchi I, et.al.. Evaluation of the Usefulness of the MRI Jelly Method for Diagnosing Complete Cul-de-Sac Obliteration. Biomed Res Int. 2014, Kikuchi I, et. al., Diagnosis of complete cul-de-sac obliteration (CCDSO) by the MRI jelly method. J Magn Reson Imaging. 2009 Feb;29(2):365-70)。今ではMRIの技術が大きく向上し、MRIでの診断も可能となってきたそうです(Thomassin-Naggara, I., Zoua, C.S., Bazot, M. et al. Diagnostic MRI for deep pelvic endometriosis: towards a standardized protocol?. Eur Radiol 34, 7705–7715)。
このような診断技術の進歩によって、腹腔鏡下手術を行わなくとも、ある程度の診断が可能となり、必要な方が、必要な手術を、それが可能な熟練した術者に執刀していただくことができるよう、我々もお手伝いできれば幸いです。
ご心配であれば、一度、外来でご相談ください。