医療安全
少し前の話ですが、とある医療訴訟が結審しました。被害者がSNSに漫画を投稿していたことで話題になり、ご存じの方も多いかもしれません。そのため、具体的な内容についてはここでは触れません。
医療行為には不確実な要素が多く、手術などの治療において合併症を完全に防ぐことは不可能です。もちろん、「合併症」と「医療事故」は異なるものですが、隣り合わせの課題であることは確かです。そのため、医療者は診療の際、常に次善策を準備し、「プランB」を念頭に置きながら対応することが求められます。
基本的にミスは起こり得るものであり、事前に防ぐ工夫をすること、または発生時の被害を最小限に抑える仕組みを整えることが非常に重要です。これは航空機の運航でも同様の考え方が採用されており、安全に必要な機器は二系統準備されることが一般的です。
医療機器も進化を続けており、説明書通りに使用すれば誰でも安全に操作できるものが増えています。かつては高度な技術を必要とした手技も、今ではより安全に実施できるよう改善されつつあります。医療安全は、過去の医療事故や合併症の経験を基に積み上げられてきたものなのです。
しかし、どれほど精密に作られた機器であっても、意図しない使い方をしてしまう医師が存在するのも事実です。そのような医師の行動は、ある意味で貴重な教材となり得ますが、一方で臨床医としての適性に疑問が生じる場合もあります。医学教育では、ペーパー試験だけではなく、実地試験を導入し、臨床現場での適性を評価する仕組みを整えています。どうしても臨床医としての適性が低い場合は、医療の別の分野で活躍する道も開かれています。
批判を受けるかもしれませんが、臨床医としての適性が十分でない医師が一定数存在することも否定できません。そのような医師は多くの場合、誠実で真面目に取り組んでいます。しかし、特に人手不足の外科系領域においては、地方では資質に課題がある医師であっても貴重な人材とされることがあります。
今回の医療訴訟に関する漫画を読んだ際、私はそのような印象を抱きました。被害に遭われた方がいる以上、医療事故を繰り返す医師を擁護するつもりはありません。しかし、この問題は個々の医師の責任だけではなく、日本の医療システム全体の課題として捉える必要があると感じます。
事件や事故が発生した際、当事者だけを罰するのではなく、医療安全の観点から再発防止策を検討することが求められます。制度の改善を含め、社会全体で議論しながら、医療の安全性を向上させていくことが重要ではないでしょうか。