ハイブリッド治療

「ハイブリッド」、おそらく誰もがどこかで耳にしたことがある言葉だと思います。特に自動車業界において、トヨタのプリウスなど、エンジンと電気モーターの「いいとこどり」をした画期的なシステムとして認識されているのではないでしょうか。最近はそのおかげもあって「ハイブリッド」とは、二つ以上のものを組み合わせさらに良いものにする、という意味で捉えられていると思われますが、今回のブログでは以前はそうではなかった、というお話をいたします。

不妊分野においての「ハイブリッド」とは、例えば体外受精と手術を組み合わせ、予め術前に体外受精により凍結胚を確保した上で手術することにより、卵巣腫瘍、特に子宮内膜症の手術による卵巣機能低下に備える方法などが挙げられます。その他、子宮を温存する子宮筋腫の手術(子宮筋腫核出術)の際にも、術前治療や術後の子宮の創の治癒期間に要する時間による卵子老化予防にも効果があると思われます。

私が大学時代、腹腔鏡グループで子宮筋腫に対する筋腫核出術前のハイブリッド治療について報告したことがありました。その際、我々のボスは、当時注目されていたトヨタのプリウスにあやかり、「ハイブリッド」という言葉を使っておりました。論文タイトルにも” hybrid therapy ”と入っております(Surgery-assisted reproductive technology hybrid therapy: a reproductive procedure for an infertile woman of late reproductive age with multiple myomas. ; J Obstet Gynaecol Res. 2009)。

ただ、論文投稿時の査読者のコメントは「ハイブリッド」いう表現に良い印象を持っておらず、当初は修正を求められました。元来「ハイブリッド」とは、イノブタのようなかけ合わせのことであり、特に生殖医療分野の学術論文においては、別の意味で捉えられてしまうリスクがあるため、表現を変更するよう指摘されてしまったのでした。しかしながら、我々のボスもこの「ハイブリッド」という言葉に拘り、何度かのやり取りの後、結局上記タイトルで掲載された経緯がありました。

論文投稿時は、海外、特にヨーロッパではディーゼルエンジンが台頭していた時代でしたから、ハイブリッド車自体がまだまだポピュラーではなかったのかもしれません。その後2015年のディーゼル不正事件を皮切りに、ヨーロッパでもハイブリッド車や電気自動車が注目されるようになりました。今後の自動車は電気に移行していくのかもしれませんが、その過程としての「いいとこどり」の「ハイブリッド」という言葉には今や、ネガティブな印象は無くなっていると思います。言葉も生き物、時代によって変化していくものなのです。我々の医療分野においても技術革新によりさらによい治療法が開発されていくでしょう。凍結技術と腹腔鏡手術の併用によるハイブリット治療、もちろん当院でも対応可能です。