がん生殖医療と卵子凍結 1
白血病やがんなどに用いられる化学療法や放射線治療は、生殖腺(卵巣・精巣)にダメージを与えてしまうことがあります。治療法の種類にもよりますが、そのダメージが不可逆な場合には、不妊に繋がってしまいます。よって、めでたく治療が終了し治癒、または緩解したとしても、妊娠が出来なくなってしまうことがあるのです。一昔前でしたら、がんが治って命が助かったのであれば、妊娠は贅沢だ、などと言われたこともあるようです。月経が来ないことで婦人科を受診、その時初めて不妊を告げられてしまう若い患者さんもいらっしゃったことも事実です。私もそのような患者さんを診るにつけ、自身の無力さを痛感させられたことがありました。
さて、近年の生殖補助医療技術の発展に伴い、受精卵のみならず、精子・卵子の凍結保存が可能となってきました。2013年には、米国生殖医学会(American Society Reproductive Medicine;ASRM)から凍結保存された卵子と新鮮卵子との比較において,その受精率,出産率がほぼ同等であるとの見解により、卵子凍結保存技術はもはや臨床研究ではなく治療であるとのガイドラインが発表されました。日本生殖医学会からも2013年秋に「未授精卵子および,卵巣組織の凍結・保存に関するガイドライン」を、日本産科婦人科学会からも2014年春に「医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する見解」が続いて発表ました。いずれも、がん治療による不妊回避のために可及的に凍結保存を検討するべき、という内容です。特に、AYA(Adolescent and Young Adult)世代、すなわち小児・思春期、若年成人に発症した場合には将来の妊娠のためにこの方法を用いておくことが100%の保証は無いにせよ、将来の希望につながると考えられるのです。この“希望”は治療に立ち向かう勇気にもつながるとされており、重要なことだと感じております。
ただ、まだその知識は広く普及しているとはいえず、地域・病院によっては温度差があるかもしれません。2012年には、がん生殖医療学会も設立されており、2017年には癌治療学会からガイドラインが発刊されております。今後さらなる発展が望まれます。
がん生殖医療学会ですが、私も微力ながら、設立当初から参画し、理事を務めさせていただいております。毎年2月に学術集会も開催されており、年々発展していることは喜ばしいことです。来年(2020年)は2月15日と16日にさいたま市のソニックシティで開催予定です。一般の方のご参加・聴講も可能ですので、ご興味のある方は是非、ご参加してみてください。