後輩の小説

大学時代、一緒に仕事をしていた医局の後輩が、婦人科クリニックを営みながら、なんと藤ノ木優というペンネームで小説家になってしまいました。私にとっては可愛い後輩のひとりですが、すでに何冊も出版している、大先生かもしれません。

その作品の中で、「-196℃のゆりかご」(https://www.shogakukan.co.jp/books/09386718)という小説は、私含め、当院スタッフが医療監修をさせていただきました。藤ノ木優先生が昔から描きたかったテーマだとのことでしたが、不妊治療についての重い内容となります。いろいろと考えさせられるお話ですが、もしよろしければ是非、お手に取ってみてください。

さて、その藤ノ木優先生の新作が、「あしたの名医2―天才医師の帰還―」です。こちらは「2」となっているように、「あしたの名医―伊豆中周産期センター―」の続編となります。第一作の評判が良かったそうで、その後シリーズ化された第2作です。こちらに初登場する「海崎栄介」というかなりクセ強なキャラクターがいるのですが、この小説を読むにつれ、私は得も言われぬ感情に襲われてしまうのです。と申しますのは、彼は横柄でKYな性格であり、決して良い人物とは言えず、側にいれば嫌われるキャラのように思えるのですが、昔の私がしたであろう言動が、彼のものとして物語のところどころに出てくるのです。そうなのです、藤ノ木先生曰く、この「海崎栄介」なる人物、半分以上は私がモデルだそうなのです。

穴があったら入りたい、とはまさにこのこと、過去の過ちを掘り返されているような、全身がかゆくなるような、あの頃の自分を𠮟り付けたいような、複雑な感情です。私はあんなにも横柄だったのか・・、後悔先に立たず、少なくともこれからは謙虚に生きようと誓った次第です。

藤ノ木先生が言うには第二弾のこの小説も評判が上々で、この海崎先生も人気があるのだそうです。第三弾でも活躍してくれるかもしれません。私として複雑ですが、自分の分身を小説内で体感し、人気が出るというのはなかなかできる経験ではないと思いますので、謙虚に楽しむしかないと覚悟しております。

この小説をお読みになった際には、この海崎先生に対する感想を私に教えてください。もし、良い印象であれば私も少し救われるかもしれません。