【基礎内容】加齢と妊娠について

 月経周期ごとでの妊娠率をMFR(monthly fecundity rate)といいますが、不妊原因がなく、健康なカップルが避妊をしない場合、MFRは約20%です。例えばウサギは90%、マントヒヒは80%で、このことからヒトは他の哺乳類と比べてもMFRが低く、妊娠しづらいということはご存知でしょうか?

  

 平均結婚年齢・平均出産年齢も上昇傾向となり、2011年に第一子の平均出産年齢が30歳を超えました。晩婚化・晩産化が進むと、加齢による卵巣機能低下だけでなく、婦人科疾患やその他の疾患を合併する可能性が高くなってきます。さらに近年、働きながら出産や子育てをする女性が増えています。また、社会生活において過度のストレスや、不規則な生活習慣を強いられていることが多く、妊孕性の低下が心配されています。つまり、不妊症で悩む方が増えているということです。

     

 まず、不妊症について日本産科婦人科学会では、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定の期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という。その一定期間については1年というのが一般的である。なお、妊娠のための医学的介入が必要な場合は期間を問わない」と定義しています。

   

 不妊治療の最も重要な因子は女性の年齢です。

卵細胞は精細胞と異なり、全てが減数分裂の途上であるため、細胞分裂によって増加することはなく、年齢と共に減少します。女性が一生のうちに排卵する卵子の数は約400個です。出生時に200万個あった原始卵胞は、思春期に5~10万個になり、35歳以上から減少率は加速し、閉経時には殆ど無くなってしまいます。

   

 また、一度低下した卵巣予備能は回復することはありません。

現在では卵巣内に残存する卵子の数に相関するAMH(抗ミュラー管ホルモン)を測定することで目安を確認することができます。AMHは2〜8mm大の前胞状〜胞状卵胞の顆粒膜細胞より分泌される周期非依存性な血清マーカーであり、その血清値から卵巣予備能の安定した評価を行うことができます

   

 妊娠にとって卵子は数だけでなく質が重要ですが、卵子の質はAMHでは測定することができません。卵子の質の低下は卵子の染色体異常や受精後の胚発達障害、さらには妊娠後の流産と関係しています。

 流産やダウン症を含む染色体異常の発症は加齢とともに指数関数的に増加していることより、年齢に伴って卵子の質が低下しているということがわかります。40歳以上の不妊患者ではAMHが高くても、年齢とともに卵子の質が急激に低下していることもあります。

  

 卵巣予備能が低下した症例における妊娠率は、きわめて低いことが多く報告されています。子宮内膜症など、施術する必要のある卵巣予備能の低下している不妊症例に対しては、事前の採卵と胚凍結や、嚢胞焼灼などの卵巣予備能が低下しない術式の選択が必要です。

 

 以上のことから、加齢と妊娠率については相関があり、卵子の質も量も重要だということがわかります。

 当院ではAMHの測定を含めた卵巣機能検査や卵子凍結も行っています。まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。