不妊治療の保険適応④ 保険診療に際しての留意点

これまで述べてきましたように、皆保険にも問題は多くあるのですが、不妊治療が自費となっていることで不利益を被っている患者さんがいることも事実だと思うのです。それ故、不妊治療の保険適応について、私としては歓迎すべきことと考えるのですが、現在の皆保険の問題点をしっかりと把握したうえで、不妊治療の保険適応について議論すべきです。そして、皆保険自体の問題点も改善していくよいきっかけとなればよいと思うのです。今まで述べてきたことを含め、以下に考えるべきポイントを纏めたいと思います。

胚培養士について

体外受精の成績に最も貢献している職種のひとつが胚培養士であることは言うまでもありません。しかしながら、現時点では国家資格がなく、学会などの認定で行っている状態です。もちろん、現在進行形で資格について検討されているそうですが、胚培養士不在の施設もまだあることも事実であり、施設間の治療成績の差にもつながっているようにも思われます。

保険点数について

保険診療においては病院の収益に直結する保険点数ですが、例えば、手術などでは薬剤や医療機器のみならず、それに関わる職種の人件費が合計されたものとして算出されております。専門職として医師、看護師の時給は計算されるのですが、ここでも胚培養士の人件費がどのように算定されるか懸念されます。胚培養をどのように点数化するか、そのあたりも議論が必要だと思います。

混合診療について

これまでにも述べました通り、適応外使用薬の多い不妊領域においては、薬剤費などがどのように扱われるかが懸念されます。そもそもですが、培養液なども試薬扱いとなっており、適応外使用だらけなのです。さらに言えば、最低限の治療を保険診療として、オプション治療を自費とし、場合によっては治療を切り分けて自費と保険を混合することがベストと考えるのですが、前提として混合診療解禁が必須となります。

法整備について

こちらもそもそも論なのですが、日本は先進国の中で唯一、生殖補助医療についての法律を持たない国となっています。生殖医療は倫理的に考えるべき問題も大きいため、法的な制御は必須であると思うのですが、わが国では学会の見解のみでコントロールされている状況なのです。例えば、卵子・精子提供による体外受精で救われる患者さんも多いと思われますので、保険適応の議論と並行して法整備を進めていただきたいと思います。

今回新しい政権となって、不妊治療の保険適応の話題が出てきたことは大変歓迎すべきと考えております。ただし、セクシャルリプロダクティブヘルス&ライツの一領域の補助に過ぎないと感じております故、避妊やHPVV、月経のコントロールなど、プレコンセプションについても幅広く補助をしていただきたいと考えます。

不妊治療の保険適応は少子化対策とは別の話だと思いますし、医師の働き方改革を進めるためにも国民皆保険の問題も検討すべき時が来ていると思われ、これを機に幅広く議論が活発化することを望みます。我々はこれまで、自身の健康と妊娠・出産について十分に考えることをしてこなかったのではないかと思うのです。性教育など全くできていないともいえる状態です。今回の保険適応の話題、国民全体として、他人事ではなく自分事として、生と性についてじっくりと考える絶好の機会だと思います。世の中がさらに良い方向に進むことを祈念いたします。