計画的卵子凍結の意義
先日、私が大学時代に行ったプロジェクトのその後についての論文が学術誌に掲載さ入れました。今回は、その内容についてご説明したいと思います。(Ohno M, Kikuchi I, et. al., The importance of social oocyte cryopreservation in supporting local municipalities: A prospective study. Womens Health. 2024 Jan-Dec;20:17455057241276256.)
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、私が順天堂大学附属浦安病院のリプロダクションセンター長だった時に浦安市の協力の下に行った、市内在住の女性を対象とした、卵子凍結プロジェクトについての論文です。少子化が問題となっている社会において、卵子凍結がどのような意味を持つのか、特に行政が費用などをサポートした場合の希望者とその動向を検討することを目的として始まったプロジェクトでした。
市からの3年間の補助を受けた寄付講座として行われ、市内在住の20歳から34歳までの女性を対象として、月に1回、19時から1時間ほどの説明会を当時プロジェクトリーダーだった私が行い、その参加者を市の広報誌やホームページ参加者を募りました。この参加者の中で卵子凍結を希望した方には、無料で1回の採卵と3年間の凍結保存ができることにしました。また、参加者にはプロジェクト終了後3年で、その後の経過についてのアンケートを行いました。
3年間で説明会に62名の女性が参加、そのうち34名が卵子凍結を希望しました。今でこそ、東京都などが助成しておりますが、当時は批判的な意見も多く、逆風の中でのものでしたので、凍結に至った方々は少なかったかもしれません。凍結を希望しなかった方々の中には、早めの妊娠を予定し後結婚、2名の方が出産に至りました。プロジェクト終了後、3年時点でのアンケート調査結果では、卵子凍結を行った方々のうち、凍結した卵子を使用して出産に至った者は1名のみであり、凍結卵子を使用せずに自然/不妊治療で妊娠した者が7名で、そのうち2名に2回の妊娠があったため、34名の参加者で合計10児の出産があったことになりました。まだ凍結継続中の方々もいらっしゃるため、今後さらに妊娠・出産される方々も増えてくるでしょう。
アンケート調査結果では、全ての方が卵子凍結を行ってよかった、と答えている一方で、まだまだ女性が子供を産むのには優しい社会ではないため、社会が変わらなければ妊娠を考えられない、という厳しい意見もありました。
卵子凍結そのものの妊娠・出産に対する効果は高くはないかもしれないが、妊孕性についてのワークショップを行ったことで出産に至るインセンティブとなった可能性があるのではないか、と我々は結論付けております。女性の年齢による妊孕性低下を防ぐ方法は今のところありません。米国生殖医学会も倫理委員会の声明として、卵子凍結は確実ではないものの、将来の妊娠を計画する女性の一つの選択肢である、としており、さらにその限界や可能性について医療従事者が正しい情報を提供すべきである、ともしております(Ethics Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Planned oocyte cryopreservation to preserve future reproductive potential: an Ethics Committee opinion. Fertil Steril 2024; 29: 604–612.)。
ともすれば、商業的になりやすい卵子凍結ですが、我々に課せられた義務として、正しい情報提供、は何より重要でしょう。引き続き、情報発信していきたいと思います。