男性不妊と保険適用

不妊治療の保険適用は、患者さんにとっては費用負担の軽減や、やはり国が認めてくれた治療という意味合いにおいても、自費診療であった頃に比べればそのハードルがかなり低くなったのではないかと思います。ただ、我々の臨床現場には多くの混乱をもたらすことにもなりました。そして、それは厚生労働省のご担当者の方々にとっては、短期間で保険診療の仕組みを作るという過去にない大事件であったとも思いますので、そのご苦労には敬意を表します。しかしながら、保険適用下の不妊治療の全ての分野で完璧なシステムが構築されたとは言い難いのも事実でしょう。主に女性の診療となってしまう不妊治療において、男性が関わる部分、特に精子の凍結については保険適用当初は診療上取り扱いが微妙な点がありました。

と申しますのは、混合診療が禁止されている中、精子凍結に係る費用について、保険上の扱いが無かったのです。当院では通常の精子凍結は院内で施行可能ですが、精巣内精子回収(TESE)については横浜市立大学のご協力の下、培養士を派遣し当院に搬送し、院内で凍結保存を行っております。2022年度から始まった不妊治療の保険適用では、それらTESEや採卵時にパートナーさんが不在のための精子凍結など、全ての精子凍結費用が保険での算定が不可能だったのです。

このことはもちろん、当院だけの問題ではありませんでしたので、全国の不妊治療期間は苦慮していたようです。少し前になりますが、8月に大阪で行われた第42回日本受精着床学会・学術講演会(http://jsfi42.umin.jp/)において、その苦労についてのシンポジウムが開催されました。我々も当院での経験について発表させていただいた次第です。

ただ、すでに今年度(本年6月以降)からは、これらの問題点が整理され、保険診療内で対応が可能となりました。医学的に必要なTESE精子凍結や、乏精子症で数回分を併用するために必要な精子凍結などは保険適用となり、さらにはパートナーさんがAIH当日や採卵当日にご都合で不在となってしまう、自己都合の精子凍結も、費用は保険ではなく「選定療養」という扱いで全額自己負担となりますが保険診療と併用が可能となったのです

保険診療は、2年毎にその内容などが見直しされていきます。今保険適用となっていない治療についても、今後保険収載されていく可能性もあり、さらに良い治療を目指して、患者さんのご意見を含め、現場からも声を上げていくことは重要だと考えます。