医療格差の衝撃――地域によって変わる「受けられる医療」

私は高知県の片田舎で育ちました。先日、高知大学医学部附属病院で県内初となる無痛分娩が行われ、母子ともに健康な出産が報じられました。実は、高知県は全国で最後まで無痛分娩を導入していなかった県です。一方、東京では自治体が無痛分娩に助成金を出す動きすらあります。この圧倒的な地域差を前に、医療資源の偏在を改めて痛感しました。

無痛分娩導入の遅れが示すもの
無痛分娩を実施するには、麻酔科医や専門助産師など複数の専門職が連携する体制が必要です。しかし地方では、常勤の麻酔科医すら確保が難しい現実があります。高知県でも「助成制度より先に体制づくりが追いつかない」という事情があり、結果として妊婦さんが安心して出産できる環境は都市部に比べて大きく遅れを取ってきました。

鉄道や電力と同じく、医療もインフラ格差の影響を受ける
医療は社会インフラの一つですが、鉄道や道路、上下水道と同様に、維持・整備コストが高い地域ではサービスが後回しにされがちです。
かつて国鉄がJRへと民営化された際、採算を理由に第三セクター化された路線が多く生まれたように、地方医療も「ビジネスとして成り立つか」で判断される傾向があります。
人口減少が進む地域では、観光や産業振興がうまくいかなければ、限界集落化が進む恐れもあります。基幹産業の企業ですら、地方では後継者不足に直面しているのが現実です。

すでに始まっている医療崩壊
私見ではありますが、日本の医療崩壊はすでに始まっていると感じています。
どの医療機関にかかるかで予後が変わってしまうことは、もはや当然のように受け止められています。
・都市部では、診療報酬とランニングコストの不均衡により採算が取れず、経営難に陥る病院が増加。
・地方では、コストは比較的低くても、医療を担う人材不足が深刻で、閉院や統廃合が進行。
結果として、都市と地方の双方で医療基盤の崩壊が進み、今の国民皆保険制度の枠組みでは存続が危ういと考えざるを得ません。
医療は「命を守る最後の砦」であるはずなのに、その砦の堅牢さは地域によって大きく異なります。
このまま現状を容認すれば、都市でも地方でも「受けられる医療」が確実に減っていく――そんな未来はすでに始まっているのかもしれません。