保険診療についての愚痴
私は大学時代には保険担当医を務めていいたこともありますし、機会を頂き、厚生労働省に何度かお伺いさせていただいたこともあります。特に不妊治療の保険適用については、意見交換もいたしました。故、それなりに保険診療についての知識は持ち合わせているつもりではあります。
そこで愚痴にはなってしまうのですが、私の意見を述べたいと思います。以前このブログでお話させていただいたように、保険診療の仕組み自体、変化していくものですから、より良い方向に向かってほしい、という願いを込めた愚痴ではあります。
まず、一般の方々にはなじみがないと思われますので、簡単に保険診療の仕組みについてお話しておきたいと思います。それぞれの医療行為について厚労省が定めた保険点数が決められており、保険診療の病医院の収益は全てここから得られることになります。患者さんはそのうちの3割をご負担し、残りの7割は加入している保健機関から支払われることになるのですが、この7割については保険医療機関が審査機関に申請し、承認されなければなりません。その結果が分かるのは2か月後と、少しずれがあることと、さらに遡って返金を求められてしまうこともあります。そしてこの審査には一応の基準はあるものの、審査機関の先生によって異なってしまうことも多々あるのです。即ち、東京では認められても、神奈川では認められない、というようなことが起こってしまうのです。
ご自身の忙しい診療の合間に審査を行っている先生方がほとんどですから、悪意を持って審査をすることはないと思われますし、保険診療機関も患者さんのために治療し、過度に儲けようとしている先生方はほとんどいないと信じたいです。しかしながら、限られた財源、それも昨今の社会保険料増大の中、医療費を抑制しようとする流れになってしまうのは仕方ないことかもしれません。ただ、保険診療において、7割の診療費が支払わられないことは、我々医療機関には大打撃であり、それによって医療機関の存続自体が難しくなってしまうリスクも孕みます。
この診療報酬を決定する「保険点数」ですが、基本的に一度決められると大幅に見直しがされることは少なく、特に増額は皆無と言っていいと思います。医療材料や人件費などが高騰しても、収益自体は変わらない、という危うい状態なのです。
産婦人科領域において、とても示唆的なのですが、帝王切開術の手術料について、先人の努力と医療技術の進歩により、手術時間が短縮されたため、保険点数が減額された、という事例がありました。努力するとマイナスになる、というとても残念な出来事だったのです。この件は何か、日本の医療の将来を暗示しているようにも思えます。
そのような背景がありますので、例えば胚盤胞がいくつかある場合、再度採卵は難しい、とお話させていただいておりますが、実際には個別に事後に査定されている、という事実があるのです。それでも、必要な医療については、赤字覚悟で行いたい、と息巻いている次第ではあります。