バレエ鑑賞のひととき
実は、私の娘はバレリーナです。最近、とあるバレエ団に入団したばかりで、現在は「コールド」と呼ばれる、主役の背後で踊る群舞の役を務めています。まだ目立つポジションではありませんが、プロとして舞台に立ち、仕事として取り組んでいる姿を見ると、親としては応援せずにはいられません。少し前になりますが、娘の出演する公演を観に行ってまいりました。
演目はチャイコフスキー作曲の『白鳥の湖』。彼の代表的なバレエ作品のひとつで、音楽はどれも耳馴染みのある名曲ばかり。場面によっては照明が暗く、少し見づらいのが残念ではありますが、生演奏の迫力は圧巻で、それだけでも十分に心を打たれました。
ご存じの方も多いかと思いますが、『白鳥の湖』の物語はこうです。結婚を迫られていたジークフリート王子が、気分転換に訪れた湖で、悪魔ロットバルトの魔法によって白鳥の姿に変えられてしまった王女オデットと出会い、恋に落ちます。オデットの侍女たちも同様に白鳥となっており、夜の間だけ人間の姿に戻れるため、王子はその時間に彼女と出会い、愛を誓います。魔法を解くには真実の愛が必要とされ、王子は彼女との結婚を決意します。
ところが舞踏会で、ロットバルトの娘オディール(黒鳥)をオデットと勘違いし、誓いを立ててしまいます。オデットは絶望し、物語は悲劇へと向かいます。白と黒を間違えるなんて…と毎回思うのですが、夜の暗さや当時の照明事情を考えると、湖畔での出会いで見間違えるのも無理はないのかもしれません。
この作品にはいくつかの結末があります。ロットバルトを倒してハッピーエンドとなるもの、二人が命を落とす悲劇的な結末、そしてロットバルトを倒した後、二人があの世で結ばれるというもの。今回私が観たのは、三つ目の「あの世で結ばれる」バージョンでした。
娘がバレエを始めてから、いくつかの作品を観てきましたが、古典バレエには「浮気性の男性に翻弄される悲劇の女性」が描かれることが多いように感じます。現代の価値観からすれば、コンプライアンス的に放送が難しいような内容もありますが、当時の社会背景を思えば、それもまた時代の反映なのでしょう。
今では、かつて虐げられていた人々の権利が少しずつ認められ、社会は変化し続けています。紆余曲折はあっても、私たちは明るい未来に向かって歩んでいる。そのことに感謝しつつ、「未来も捨てたものじゃない」と、希望を持ちたいと思いました。