検査値のとらえ方~感度・特異度~
本ブログにも載せましたが、少し前に日本不妊カウンセリング学会で講義を行いました。その内容について、一部ご紹介したいと思います。ちょうど新型コロナウイルス感染症の検査について話題となっておりましたので、直接は関係ないのですが、検査とはどういうものなのか?についてお話ししたいと思います。
統計学を難しくとらえてしまう方も多いためか、我々は例えば採血データを見て、正常なのか正常でないのかのみに注目してしまいがちです。不妊検査として重要なものの一つに精液検査がありますが、その結果は大きく変動することが知られています。すなわち、日によって値が変わってしまうことも多く、基準値内にあった方が再度検査を行うと、四分の一くらいは異常値が出てしまうようなものなのです。よって、我々としても、結果をご説明する際には、その点をお話しするようにしており、異常値が出た場合でも、再度検査をすることをお奨めしております。
さて、一例として、採血データの一項目をある疾患(病気)の診断に使う場合を考えてみたいと思います。データにはばらつきがあるため、疾患のある人の方が高いものの、疾患があっても低めの値を示したり、疾患ではない方の中にも若干高めの値がでたりすることは、よく起こることであり、ざっくりとしたイメージとして図1のようになります。赤い丸が疾患のある方の検査値、青い丸が疾患のない方の検査値とさせていただきます。
疾患のあるなしを判定するための基準値を設定することを考えたいのですが、図2のような緑の線を基準値として設定すると、
疾患のない方を判定する(特異度)は100%となりますが、疾患のある方3名のみしか診断することができず、2名は疾患があるにもかかわらず、正常と判断されてしまうことになってしまいます。5名中3名のみが陽性となるため疾患がある方を診断できる能力(感度)は60%と低くなるのです。一方、図3のような基準値にすると、
疾患のある方を診断する能力(感度)は100%となりますが、本当は疾患ではない方も疾患としてとらえてしまうことになるのです(擬陽性)。健康診断で最初に行う検査としては、疾患のある方を見逃さない、という意味においては有効でしょう。また、検査自体は無料ではありませんし、採血などの負担もあるわけですから、その目的とコストを含めた負担を考慮してどの検査を最初に行うかを検討すべきなのです。一般的には感度と特異度を足して150%を超えていればよい検査とされておりますが、検査は絶対ではないことをご承知おきいただきたいと思います。上述しましたが、特に精液検査のように変動するものについては、再現性という点においてもある程度の幅を持って検査結果をとらえるべきと考えます。